
投稿日 2009年10月05日
9月16日内閣発足以来二週間余りが経ちましたが、この間の動きをみていると、この政権が予想していた以上に国の在り方を大きく変えようとしているのが感じられます。長年野党にあって政権構想を温めてきたであろう閣僚や副大臣たちの意気込みが強い分、これから様々な軋轢や混乱が予想されますが、方向性としては、少なくとも私にとってそれは「歴史的な大転換」として評価できるものです。ポスト冷戦の世界の潮流にようやく日本も加わろうとしているように思えます。
例えば、八ッ場ダムの問題にしても、半世紀近くに渡って国の政策に振り回され、政権交代によって生活設計を台無しにされる住民の方たちのお気持ちを思えば本当に同情に耐えませんが、前原国土交通相の話を良く聞けば、公共工事の名の許に自然を破壊してきたこれまでの国の政策をここで一度見直さなければ、という歴史的使命感が感じられます。それは今を生きる世界の多くの人々の共通認識になりつつある、「地球の環境保全」「持続可能な発展」「生物多様性・生態系の保護」などに呼応する価値観であり、日本も待ったなしの方向転換を迫られていた問題だったと思います。
折しも広島地裁が10月1日、鞆の浦の埋め立て・架橋工事を、
「鞆の浦の景観は、文化的・歴史的価値を有し、国民の財産というべき公益。景観利益は法律上の保護に値する」
として差し止めを命じました。私にとってはこれが景観の保護を理由に大型公共工事を差し止めた初めての判決、という事の方が驚きで、明治維新以来あらゆる種類の文化的・歴史的景観や自然をためらいもなく破壊してきたこの国の異常さを思わずにはいられませんが、これが一つの変化の兆しであることを祈りたいと思いますし、民主党政権にはこの判決の精神を踏まえて、一つ一つの公共事業の見直しを進めてもらいたいと思います。もちろん私は全ての公共事業は悪である、などとは思いませんし、日本の技術力の高さを世界に示せるような、あるいは人々の生活の利便性や国家戦略的な見地から真に必要な公共工事もあるとは思うのですが。
ところで先回のブログで鳩山総理のCO2を1990年度比2020年までに25%削減、という国連での演説を取り上げましたが、その直後総理が国連で行った二つの演説は、画期的なもので、日本の総理が国際社会に向かってこれほど明解に国家理念や方向性、歴史的な役割などを発信するのを初めて見たように思いました。
戦後の日本は世界中にODAをバラまく世界第二位の経済大国でありながら、国際社会では誠に影が薄く、アメリカの核の傘に守られ、アメリカには決して逆らえない属国と見なされているから日本の発言は全く注目されない。その「欲求不満」解消のために、私は「日本の蘇生」の中で、日本の総理がアメリカ大統領と手を携えて世界に核の廃絶を訴えたり、国連安保理の常任理事国を世界の諸地域を代表する国々で構成し、それらの国々はその地域の平和と安定に責任を担うが拒否権は持たない、という国連改革の先頭に立ったり、東アジア・アセアン・オーストラリア、ニュージーランドなどと多国間の集団安全保障体制を構築し、貿易決済通貨としての、ドル・ユーロ・リアド(仮に中東連合の共通通貨)と並ぶアジア共通通貨を創設する、といった「夢物語」を描いたのですが、鳩山総理の国連での演説で示された理念と方向性は、私にひょっとしてそれらは夢物語から現実となるかもしれない、という期待を抱かせてくれました。
まず日本時間で9月25日未明に行われた国連総会の演説で、鳩山総理は 「第2次世界大戦後の日本では、投票を通じた政権交代が行われることはありませんでした。政と官の間の緊張関係が消えて「顔の見えない、国民に選ばれたことのない官僚」への依存が強まり、結果として日本外交から活力を奪ってしまった面があることは否めません」
と語って、今回の政権交代が日本の民主主義の勝利であることを強調。そして
「新生日本は友愛精神に基づき、東洋と西洋の間、先進国と途上国の間、多様な文明の間等で世界の「架け橋」となるべく、全力を尽くしていきます」と述べ、「日本が挑むべき挑戦」として、
1)世界的な経済危機への対処
2)気候変動問題への取り組み
3)核軍縮・不拡散
4)平和構築・開発・貧困への対処
5)東アジア共同体の構築
の五つを掲げています。
このうち、3)の核軍縮・不拡散では
「この分野でも、日本は核保有国と非核保有国の「架け橋」となって核軍縮の促進役になれる可能性があります。すなわち、核保有国に核軍縮を促し、非核保有国に核兵器保有の誘惑を断つよう、最も説得力をもって主張できるのは、唯一の被爆国としてノーモア・ヒロシマ、ノーモア・ナガサキと訴え続けてきた日本、そして、核保有の潜在的能力を持ちながら非核三原則を掲げ続けている日本です」
と述べています。
6)の平和構築・開発・貧困への対処では
「21世紀の今日においても、貧困、感染症、保健、教育、水と衛生、食料、麻薬などの問題から世界は解放されていません。特に、途上国において事態は深刻です。破綻国家がテロの温床になるという、残念な現実も指摘せざるをえません。昨年来の世界経済危機は、状況の悪化に拍車をかけています。新しい今日の世界において、「国家の安全保障」と「人間の安全保障」はますます分離不可能になってきました。様々な国家も、民族も、人種も、宗教も、互いの違いを認めて共生する、つまり「友愛」の理念によって「支えあう安全保障(shared security)」を実現することこそが、人類を救う道なのです」
そして5番目の「東アジア共同体の構築」では
「今日、アジア太平洋地域に深くかかわらずして日本が発展する道はありません。「開かれた地域主義」の原則に立ちながら、この地域の安全保障上のリスクを減らし、経済的なダイナミズムを共有しあうことは、わが国にとってはもちろんのこと、地域にとっても国際社会にとっても大きな利益になるでしょう。 FTA(自由貿易協定)、金融、通貨、エネルギー、環境、災害救援など、できる分野から、協力し合えるパートナー同士が一歩一歩、協力を積み重ねることの延長線上に、東アジア共同体が姿を現すことを期待しています。もちろん、ローマは一日にしてならず、です。ゆっくりでも着実に進めていこうではありませんか」
と述べています。
そして最期に、「国際連合こそがまさに「架け橋」の外交の表現の場であることを、列席の皆さま方に思い起こしていただきたいと思います」
として、
「国際の平和と安全、開発、環境などの諸問題の解決にあたり、国連の果たす役割には極めて大きいものがあります。私は、国連をもっと生かしたいし、国連全体の実効性と効率性を高めたいとも思います」
という言葉で約20分にわたる演説を締めくくっています。
その後開かれた安保理の会合も国連の歴史を飾る極めて画期的なものでした。安保理の9月の議長国であるアメリカの提案で、初の核不拡散・核軍縮に関する首脳級会合が開かれ、日ごろ安保理の議長となる国連大使に代わって、史上初めてアメリカ大統領自ら議長を務めたのです。そしてオバマ大統領の提案する「核兵器のない世界」を目指す決議を全会一致で採択しました。核を保有する五つの常任理事国が、非常任理事国の国々と共に「核のない世界」という未来に向かって歩み始めたことになります。
その後非常任理事国である日本の鳩山総理が演説を行い、唯一の被爆国である日本が核の廃絶の先頭に立つ道義的責任を訴えました。
「なぜ日本は、核兵器開発の潜在能力があるにもかかわらず、非核の道を歩んできたのでしょうか。日本は核兵器による攻撃を受けた唯一の国家であります。しかし、我々は核軍拡の連鎖を断ち切る道を選びました。それこそが、唯一の被爆国として我が国が果たすべき道義的な責任だと信じたからであります。近隣の国家が核開発を進めるたびに「日本の核保有」を疑う声が出ると言います。だがそれは、被爆国としての責任を果たすため、核を持たないのだという我々の強い意志を知らないが故の話です。私は今日、日本が非核三原則を堅持することを改めて誓います」
そしてその為の日本の取組として、 核保有国に対して核軍縮を求める。 CTBT(包括的核実権禁止条約)の早期発効、カットオフ条約(兵器用核分裂物質生産禁止条約)の早期交渉開始を強く訴える。日本自身が核軍縮・不拡散を主導する積極的な外交を展開する。などを挙げています。
オバマの大統領選での勝利、プラハでの核廃絶に向けての演説、今回の国連での展開や日本の総理の堂々たる演説。このスピード感に私は圧倒され、大きな手応えを感じ、また驚いています。
例えば鳩山総理は安保理の演説の中で「日本は非核三原則を守る」と明言しました。しかし、日本にアメリカの核搭載艦がしばしば立ち寄っていることは、日本政府のこれまでの執拗な否定にも拘わらず、国民周知の事実だったと思います。日本はアメリカにそれを要求できるのでしょうか。
いずれにしろ、鳩山総理がこの二つの演説で国際社会に向かって発信したことは、このうちの幾分かでも実行できれば、間違いなく世界で日本の立場を強め、主導権を握りながらの独自外交を展開することができるでしょう。その方向に向かって少しづつでも前進してゆく為には国民の理解と忍耐が不可欠です。
もちろん、国内政治で躓き、あっという間に政権が瓦解すれば、これが「一夜の夢」に終わる可能性もあります。しばらくは見守るしかありません。
「日本は自ら核武装はしない、などと宣言して、核保有という外交カードを捨てるべきではない」という意見があるようですが、ここまで国際社会が結束して「核のない世界」へ向かおうとしている時に、日本の核武装 など将に気違い沙汰です。日本を擁護する国などある筈はなく、世界中を敵に廻し、制裁を受け・・・。輸出に頼り、資源に乏しく、食糧自給率が40%を切ろうというこの国が辿るのは間違いなく破滅への道です。