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消費税についてーフランスとオランダの場合

投稿日  2010年07月07日

 鳩山政権の発足から瓦解に至るまでの8ヶ月間、日本の政治の著しい劣化と共に日々感じていたのは日本社会の無気力化でした。有史以来一度も外国からの支配を受けることのなかったこの国は、敗戦から65年経っていよいよ本格的に宗主国におもねる植民地根性の染みついた卑しげな国になってしまった、という思いを噛みしめる毎日でした。
 独立国としての自立・自尊の精神を失ってまで安全保障をアメリカに丸投げしてきたことの歪みを私はこの国の様々な面で感じてしまうのですが、とりわけ自主外交の放棄によって生じた停滞は今、この世界史の大転換期にあって日本の戦後体制からの脱却を阻んでいるように見えます。

 言うまでもなく、安全保障とは、軍事だけでなく、外交力、情報力(諜報も含む)、そしてなによりも国民から信頼される政治のリーダーシップに基づいたしたたかで柔軟な政治力が求められる分野ですが、戦後政治家や官僚、大部分のマスコミがアメリカの顔色ばかり窺っていたこの国では、それらは劣化の一途を辿って今や全くの機能不全に陥っており、戦後の日米安保体制の負の側面を見る思いです。
 さてこの文章は、対ロシア外交を中心に、日本のこれからの外交の在り方について考えてみたいと思って書き始めたのですが、管総理が消費税率10%を打ち出したことによって7月11日の参院選の争点の一つとなった消費税についての議論が本質から大きくそれているように見えるのが気になるので、今回はそこに絞って書いてみます。

 参院選を前にして野党は「増税は庶民の生活を直撃する」「人々の生活を破壊する増税は許さない」とあえて扇情的に人々の怒りを煽っていますが、私の知る限り、消費税の先進国ヨーロッパでは生活必需品に関しては税率を低く抑えるのが原則であり、景気の面からはともかく、庶民の生活に直接影響が及ぶようなことはあまりないと思います。
 私は1968年-69年と1976年-81年と二度フランスでの生活を体験しています。その頃既に消費税率は19%以上、物によっては20%を超えていたと思いますが、TVA(la taxe a valeur ajoutee)付加価値税を意識するのはたまにサン・トノレなどの高級ショッピング街でブランド品を買う時くらいで、近所の市場や八百屋やスーパーで買い物をしている限りTVAの高い税率を気にすることはありませんでした。
 1954年にフランスで初めて導入されたという付加価値税は各国で福祉や年金に充てられることが多く、国民全体が負担を強いられる分導入に慎重を期するのは分かりますが、今後消費税率を引き上げるのであれば、庶民の生活を破壊しないようなしっかりとした制度設計を行うことが大事なのだと思います。
 割引税率の適用は各国によって微妙に異なり、それぞれの国柄や価値観を反映するものになっています、例えばフランスでは国内の消費税率は19.6%ですが下記の物には割引税率5.5%、一部は2.1%が適用されています。

<5.5%>

飲料水・飲料(アルコール飲料を除く)
食品(砂糖菓子、チョコレート、マーガリン、植物性油脂、キャビアを除く)
暖房用の木材
家畜用の飼料、農業用の肥料・ミネラル類
書籍
医薬品・医療器具・機器
公的住宅のための敷地、建設工事、補修工事
老人ホーム内のサービス・介護サービス
上下水道サービス、ゴミ回収サービス
電気、ガスの利用料
劇場、コンサート会場、サーカス、映画館、移動遊園地、動物園、美術館、史跡などの入場料(ただし、成人指定作品を扱う場合を除く)
公共交通機関、衛星放送・ケーブルテレビなどの受信料
弁護士・代訴人の費用

<2.1%>

演劇・音楽・舞踏・サーカスなどの初演(成人指定作品を除く)
家畜の販売
司法サービス
医療行為、一部の医薬品
日刊紙
(メールマガジン フランスの片隅から を参考にさせていただきました。)

 巨大な財政赤字を抱え、人々が年金への不信感や老後への不安を募らせて未加入者が増えている現状で年金崩壊を防ぐためにも、消費税を上げるのが間違った方向とは思えませんが、ただ総理たるもの、そのことを党のマニフェストに掲げるのであれば、自身がその政策への揺るぎない信念を持ち叉制度設計のための基本的な方向性を確立しておいていただきたいものです。野党からの攻撃や支持率の低下にうろたえて、「今すぐに上げるとは言ってない」とすぐに腰が引け、「食料品への戻し減税を行う」という愚の骨頂のばらまきを口にするのは情けない。何故日本の政治家や官僚たちは、確固とした考え方に基づいた堅牢な政策を構築できないのでしょうか。

 何を割り引き税率の対象にするかは先にも書いたように各国のそれぞれの考え方を反映していますが、下記に掲げるのはオランダ在住の友人が調べてくれたオランダの割引き税率のリストです。

 オランダの消費税率は19%。 但し下記の物は6%

1.飲食品一般(アルコールを除く)
2.農作物
3.医薬品
4.視覚障害者関係の品物
5.交通機関
6.本・雑誌
7.キャンプ場・バカンスハウス
8.芸術家による上演・演奏
9.Museum/コンサート/スポーツの試合の入場
10.床屋・美容院
11.服・くつ・自転車の修理
12.15年以上の家のペンキ塗り、漆喰塗り

 両国とも食料、飲料、医薬品、交通機関、書籍などと共に、広く芸術や文化に関する活動やチケット代が割引税率の対象になっているのは、文化を大切にするヨーロッパ共通の精神を感じます。私も学生時代頻繁にコンサートや美術館などに通いましたが、学生用のチケットは驚くほど安く、また各ミュージアムは日曜日は無料で、超一流の芸術を実に安価に享受することができました。
 オランダの、キャンプ場・バカンスハウスや15年以上の家のペンキ塗り、漆喰塗りは、バカンスを過ごすのに別荘も無く、ホテルにも滞在できない人々、あるいは家のペンキ塗りなどを他に頼む余裕などない人々への配慮が感じられます。
 戻し減税というお金のかかるやり方で、しかも対象となる人の年収額でふらつくより、日本は日本らしい制度設計をしていただきたいと思います。
 例えば子育て支援をしたいのであれば、粉ミルクや紙おむつや保育所の費用を。
 高齢者に手厚くしたいのであれば、フランスのように老人ホーム内のサービス・介護サービス等を。
 なるべく多くの人々に日本の文化芸術に触れてもらいたい、と思うなら、歌舞伎や文楽や能のチケット代を。
 その他色々な観点から、今の5%に抑えるか、あるいは税率を引き下げる品目をリストアップしていただきたいと思います。
 一方で、余裕のある人々には贅沢品を買う折り、少し高めの消費税を負担していただく。そういう意味での納税者の社会に対する責任感も大事だと思いますが、その為には政治や行政への信頼感が不可欠で、そういう意味ではまだ日本にはヨーロッパ並みの高い消費税率を導入する準備はできていないのかもしれません。

 国のトップが一年も持たずに次々と交代してゆくなど、およそ世界の先進国といわれている国にはないことで、それも日本人が自国の真の統治者たり得ていない証のようにも見えるのですが、このようなことを繰り返せば激しく変貌する新世界秩序の中で沈んで行くしかありません。管内閣にどこまで期待できるのか、実は私もぐらついているのですが、学生時代は学生運動に明け暮れ、市川房枝という、平塚雷鳥と共に日本の婦人解放運動を引っ張った筋金入りの市民運動家と行動を共にし、自らも市民運動によって支えられてきた、と自負する管総理は確かにこれまでの総理とは異質であり、ぶれずに信念に基づいた政治を行ってほしいと願うしかありません。
 管総理はその所信表明演説の中で、現実主義の立場から1960-80年代論壇で中心的役割を果たした国際政治学者で東工大名誉教授の永井陽之助氏のことに触れていました。色々調べていたら、私がよくチェックする中田安彦氏の「ジャパン・ハンドラーズと国際金融情報」の2009年3月19日のページで、東工大での永井氏の数人の教え子たちを中心に様々な角度から永井陽之助を語るページを紹介していました。
 「美しい理想」と「醜い平和」ならば、「醜い平和」を取るべきだ、と説く「平和の代償」という名著を遺した永井氏は、その「政治的リアリズム」の観点から軽武装・経済重視の吉田ドクトリンを高く評価し、「日米安保」を冷戦下の日本の現実的な選択、と考えたようです。
 私は前回の「覇権国アメリカの謀略とダブルスタンダード」で
「評論家や学者たちはこのような事実を直視し、日本とアメリカは価値観を共有している、といった美辞麗句は慎み、『アメリカの戦争は残虐非道で、テロとの戦いで犠牲になる人々の人権は確かに無視されている。しかしそれでも国を守るために日米安保は堅持すべきである』と言って頂きたい」と書きましたが、そういう意味では永井陽之助氏の「日米安保という苦い選択」は日米安保を歯の浮くような美辞麗句で飾り立てる御用学者たちよりは信用できるように思います。
 永井氏を様々な角度から語るこのページに次のような書き込みがありました。
 
 「最近、とんとご無沙汰の永井陽之助先生。90年代になって以来、マスコミへの露出度ほとんどゼロ。
先日、国連大使の北岡伸一先生と会食した際、「永井先生は最近どうしておられるんですか」と聞いたら
「90年代半ばに急速に『反米』に傾斜して以来、誰からも相手にされなくなった」との お話。しばし絶句」

 2005年あたりから「日本の蘇生」を書くために色々と調べ初めて、冷戦終結後のアメリカの「日本潰し」が如何に長期的な戦略に基づいた巧妙なものであったかに気づき、そのため本の内容も大幅に変更せざるを得なかったのですが、永井陽之助が90年代半ばから何故反米に傾斜していったのか。そのいきさつを語ることなく2008年12月に世を去ったのは残念です。
 管総理が日米安保重視を唱えつつ、アメリカへの警戒心を解かず、一方で10年後、20年後の新たな世界秩序に於ける日本の飛躍を準備する。せめてその目線だけは持っていて頂きたいと念じます。


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